WellMil WellMil

記事一覧

ストレスチェックの多言語対応ガイド|外国人労働者への実施方法と注意点

|労務管理

日本で働く外国人労働者数は、2024年時点で200万人を超え、製造業・建設業・介護・飲食業など多くの業種で欠かせない存在となっています。外国人労働者も日本人労働者と同様にストレスチェックの対象となりますが、言語の壁・文化的背景の違い・制度への理解不足という三重の課題が実施を困難にしています。

本記事では、外国人労働者を雇用する企業がストレスチェックを適切に実施するための多言語対応の方法と実務上の注意点を解説します。

この記事のポイント
  • 外国人労働者もストレスチェックの義務対象となる法的根拠
  • 厚生労働省提供の公式翻訳版(多言語版)の活用方法
  • 文化的背景による回答傾向の違いと解釈の注意点
  • 多言語対応システムの選定ポイントと自社開発の検討
  • 外国人労働者が安心して回答できる環境づくり

外国人労働者とストレスチェックの法的位置付け

労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度は、国籍を問わず日本国内の事業場で常時使用される労働者に適用されます。国籍を問わず、契約期間(期間の定めがない、または1年以上使用の見込み等)と週の所定労働時間(通常の労働者の4分の3以上)の条件を満たす労働者が対象です。

外国人労働者への実施が困難な場合の対応

言語の問題でストレスチェックを実施できなかった場合でも、「実施義務を果たせなかった」という問題は残ります。厚生労働省はこの点を認識しており、多言語版の提供や翻訳版の活用を推奨しています。

日本語が読めないことを理由に対象者のストレスチェックを省略すると、法令違反になる可能性があります。本人が理解できる言語で回答できる環境を整えてください。

公式翻訳版の活用

厚生労働省は、職業性ストレス簡易調査票(57問)の多言語翻訳版を公式に提供しています。57問版の外国語版は、英語・中国語・ベトナム語・タガログ語・ネパール語・ペルシャ語・ポルトガル語・ミャンマー語・スペイン語・インドネシア語の10言語です(厚生労働省「外国語版の職業性ストレス簡易調査票等」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/index_00022.html)。

提供されている言語

言語対応する主な国籍・地域
英語欧米系、フィリピン等
中国語中国・台湾・香港
ベトナム語ベトナム
タガログ語フィリピン
ネパール語ネパール
ペルシャ語イラン等
ポルトガル語ブラジル・ポルトガル
ミャンマー語ミャンマー
スペイン語ラテンアメリカ諸国
インドネシア語インドネシア

翻訳版の使用上の注意

公式翻訳版を使用する場合は、以下の点に注意が必要です。

  • 翻訳版は厚生労働省が提供する正式なもの(または公認の翻訳)を使用する
  • 独自の翻訳は表現のニュアンスが変わる可能性があり、分析精度に影響する場合がある
  • 回答後のデータ処理は日本語版と同じ採点方式で行う

文化的背景による回答傾向の違い

ストレスチェックの結果を解釈する際、文化的背景による回答傾向の違いを理解しておくことが重要です。

回答傾向に影響する文化的要因

母語や文化によって、質問の受け取り方や回答のしかたが違う可能性があります。

そのため、外国人労働者の集団分析結果は「低ストレス」と出ても実態を正確に反映していない可能性があります。特に高ストレス者のスクリーニングだけに頼らず、個別面談・日常観察との組み合わせが重要です。

制度上の注意点:独自に翻訳した調査票を使う場合は、翻訳版の作成・使用について実施者と相談し、衛生委員会で審議してください。結果の評価は日本語版と同じ採点方式で行います。

外国人労働者が安心して回答できる環境づくり

外国人労働者の回答率と回答の信頼性を高めるために必要な環境整備を解説します。

制度の説明と守秘義務の周知

ストレスチェック制度自体が日本特有の制度であり、出身国にない場合が多いです。何のための調査か・結果はどう扱われるかを、母国語でわかりやすく説明することが回答率向上の前提条件です。

特に以下の点を母国語で明確に伝えます:

  • 「これは労働安全衛生法に基づく健康確認の調査です」
  • 「回答内容は会社・上司に知られることはありません」
  • 「回答しないことで不利益(解雇・減給等)を受けることはありません」
  • 「高ストレスと出ても、強制的に医師に連れて行かれることはありません」

母国語が話せるサポート窓口の設置

ストレスチェックの結果、面談を希望する外国人労働者のために、母国語でコミュニケーションできる産業医・保健師・EAPカウンセラーの確保が理想的です。難しい場合は、通訳を介した面談体制を整備します。

多言語対応システムの選定ポイント

外国人労働者を多く雇用する企業がストレスチェックシステムを選定する際の確認事項を整理します。

必要な機能

  • 複数言語の質問票表示(英語・中国語・ベトナム語・インドネシア語等)
  • 言語選択インターフェース(従業員が自分で言語を選べる)
  • 多言語版の回答と日本語版の採点基準の統一
  • 通知メール・リマインダーの多言語対応
  • 面談申し出フォームの多言語化

厚生労働省版に無い言語への対応

厚生労働省版に無い言語(韓国語・タイ語など)が必要な場合は、独自に翻訳版を用意することになります。独自言語版の作成では、翻訳の正確性と採点基準の統一に特に注意が必要です。

関連記事

まとめ

外国人労働者へのストレスチェック実施は、「言語の壁」「文化的背景による回答傾向の違い」「制度理解の促進」という三つの課題を段階的に解決することで実現できます。公式翻訳版の活用、母国語での制度説明、多言語対応システムの整備という三つの柱を構築することが基本的なアプローチです。

さらに重要なのは、集団分析結果だけに頼らず個別面談・日常観察と組み合わせた多層的なケア体制を整備することです。

よくある質問

外国人労働者のストレスチェックは日本語以外でも実施できますか?

はい、実施できます。厚生労働省は英語・中国語・ベトナム語・タガログ語・ネパール語・ペルシャ語・ポルトガル語・ミャンマー語・スペイン語・インドネシア語の10言語の調査票(57問版)を提供しています。「職業性ストレス簡易調査票(多言語版)」として厚労省サイトから無料でダウンロード可能です。

外国人労働者が「高ストレス」でも面談を申し出ない場合はどう対応しますか?

面談申し出は労働者の権利であり強制できません(労安衛法第66条の10第3項)。申し出の方法は、本人が理解できる言語で知らせることが望ましい対応です。通知書・案内文を本人の理解できる言語で用意し、管理職や通訳者を通じた勧奨(不利益取扱いにならない形での声かけ)を行うことが実務上の対応です。

厚生労働省が提供していない言語(韓国語・タイ語等)への対応はどうすればよいですか?

厚労省提供外の言語については、外部専門機関(多言語翻訳業者・産業保健専門機関)に依頼して翻訳版を作成するか、通訳者が質問を読み上げながら実施する方法があります。ただし翻訳の信頼性確保が重要です。翻訳版の作成・使用は実施者と相談し、衛生委員会で審議してください。

外国人労働者の集団分析結果は日本人と比較してよいですか?

文化的背景・言語理解の違いによる回答傾向の差があるため、単純比較には注意が必要です。集団分析(努力義務:労働安全衛生規則第52条の14)を行う場合は、国籍・文化背景を考慮したグループ設定が望ましく、国籍別の傾向把握を目的とした副次的な分析として活用するのが適切です。

外国人労働者への周知はどのような方法が効果的ですか?

多言語の案内チラシ・通知文の配布に加え、上司・管理職への通訳依頼や社内の日本語が得意な同国籍従業員によるサポートが効果的です。QRコードで厚労省の多言語解説ページに誘導する方法も活用できます。実施案内(いつ・どこで・何のために)を明確に伝えることが受検率向上の鍵です。

技能実習生・特定技能外国人もストレスチェックの対象になりますか?

はい、対象になります。受検させる対象者(1年以上使用の見込み等があり、週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上)にあたれば、国籍・在留資格を問わずストレスチェックの実施義務が適用されます。技能実習生・特定技能外国人もこの要件を満たす場合が多く、対象として扱うのが原則です。

外国人労働者のストレスチェック結果は本人に直接通知する義務がありますか?

はい、実施者(医師・保健師等)が本人に直接通知する義務があります(労安衛法第66条の10第2項)。通知書は本人が理解できる言語で作成するか、翻訳を添付することが望ましい対応です。結果を事業者に開示するには本人の同意(書面)が必要で、同意書も多言語で用意することを推奨します。

外国人労働者が多い職場でストレスチェックを外注する場合の選び方は?

多言語対応(対応言語数・翻訳品質・通訳サポートの有無)、文化的背景に配慮した実施体制、個人情報の取扱い方針(特に入管関連情報との混在を防ぐ設計)の3点を確認してください。また、外国人雇用が多い建設・製造・農業・飲食分野の実績がある委託先を選ぶことで、業種特有の課題に対応しやすくなります。